バイモソウ、あるいは貝母草・・・発芽

 数年前の厳寒2月、庭の隅に、見た事のない草の芽が出てきたのに気づいた。雑草かと思ったが、よく見ると艶やかな葉は美しく、しばらく様子を見ることにした。
 4月が近づくころには、約50センチほどに伸び、面白いことに、葉の先がツルのように伸び、近くのコノテガシワの枝に巻き付いたり、お互いの茎に絡み合ったりして身を支えている。変な草だ。そして下向きの袋状の花が咲いたが、全く地味で色気もない。しかしながら、何となく奥ゆかしさも無くはない。
 今ならスマホをかざせばすぐに分かるのだろうが、当時植物図鑑や野草図鑑などをいくら調べてみても、なかなかわからない。しかしやっとインターネットで同じ草を見つけることができた。「バイモ」、漢字で「貝母」という草である。広辞苑などにもちゃんと出ている。有名らしい。

ばいも【貝母】
ユリ科の多年草、中国原産。葉は狭く先端は巻鬚(まきひげ)状に伸びる。3~4月頃、葉腋に淡緑黄色で内面に網状紫斑のある鐘形花をつける。鱗茎を乾かして煎じ、咳止めに用いる。鑑賞用。アミガサユり。ハハクリ。

秦秀雄『野花を生ける』より

 不思議なことに、一旦草名がわかると結構目につくようになった。NHKの茶道番組で、掛け花入れにさしてあったのに気づいた。さすがに色気もない渋い花だ。茶花にも使われるようだ。
 また、私の大切にしている秦秀雄著『野花を生ける』(神無書房)の「弥生」にもバイモが使われている。これは秦秀雄が選んだ花器に、自宅で多くの野草を育てている堀口正美さんという女性が生けたものを歳時記風に収録した、すばらしい写真・随筆集である。ここでは白山吹とバイモが黄瀬戸の花器に生けられている。長年見ていのだが、バイモには全く気付かなかった。

 それから毎年、このバイモの新しい芽が出てくるのが楽しみになった。いつも2月の初めである。

2023年2月末、このまま枯れたバイモ

 一昨年のことだ。例年どおり新しい芽が出てきた。このブログに「バイモ成長観察記」を書こうと意気込んで、毎日楽しみに葉の伸びるのを観察していたのだが、2月末に突然成長が止まりそして枯れてしまった。

 

近所の公園のバイモ
葉先の渦巻きを面白がる孫の手

 しかし、近所の公園で立派に成長したバイモを発見した。生育環境のためか、あるいは若干の種の差によるのか、我が家のものとはやや違っているようだが、確かにバイモである。見つけた孫が、花以上に葉先の渦巻きを面白がっていた。


 そして昨年、異常気象のせいだろうか、我が家ではいくら待っても、とうとう新しい芽が出てくることはなかった。もう球根まで枯れてしまったのかも知れない。近くの公園のものは大丈夫だろうかと出かけてみたが、なんと花壇に作り替えられて、バイモの草原は消滅してしまった。

 近場でバイモを見ることはもうできないだろうと諦め、今年はすっかり忘れていたのだが、先日、我が家のバイモが新しい芽を出している。旧友にでも出会ったような感銘を受けた。今年こそ、バイモ成長記を書こう。

今年のバイモ新芽(2月10日)

 余談だが、バイモと呼ばれ私もここでそう記してきたが、「バイモ」だけではどうも呼び捨てしているような居心地の悪さを感じてしまう。レンゲだってレンゲソウである。芭蕉だって「なにやらゆかしすみれ草」だ。私もそれにならって「バイモソウ」と呼ぶことにした。

バイモソウ、あるいは貝母草・・・発芽” に対して1件のコメントがあります。

  1. 薄井滋 より:

    いいですな。こういう話なら一年中題材に困ることはないでしょう。私にはないジャンルです。

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