ホーギー・カーマイケルの話

 ホーギー・カーマイケルという名前は、ジャズ好きの一部の人たちを除けば、さほど広くは知られていないだろう。しかし、あの「Stardust」の作曲家だと言えば、ほとんどの人は曲はよく知っているが、作曲家は知らなかったと答えるはずである。シンガー・ソングライターの元祖のような人で、ピアノを弾き語りでの録音もたくさん残されている。

 先日YouTubeで面白いものを見つけた。「Hoagy Carmichael remembers Bix Beiderbecke」(https://www.youtube.com/watch?v=lHzE7E6eQgU)という、おそらくは米国のラジオ局が行ったインタビューだろうと思うが、その録音である。内容は表題とはちょっと違って、ホーギー・カーマイケルがビックス・バイダーベックのフレーズを自分の作曲に使っている、という見方に対して反論しているものである。ビックスを非常に敬愛しており作曲方法については学び影響を受けているが、そのフレーズをそのまま使うというようなことはしていない、という趣旨である。(USさん、短いものですので、全部を正確に訳してもらえませんか?)
 ビックス・バイダーベックについてはSUさんが先日ブログ・アップしたすばらしい記事がある。ちょっと脇道にそれるが、あの記事を読んで「村上春樹さんが、ビックス・バイダーベック(とトランバウアーの共演)のものではSingin’ the Blues, I’m Coming Virginiaの2曲を聴けば十分だと言っているいるようですが……」と尋ねたところ「それはビックスに対する完全な過小評価です」という返事をもらった。私も今はそう思っている。
 ビックス・バイダーベックの与えた非常に大きな影響に驚かされる。ホーギー・カーマイケルの曲にどのように、ビックスの影響が表れているのか、あるいは潜んでいるのか、じっくり聴きこんで見つけ出したいと思っている。

HORGY sings CARMICHAELの再発CD
THE STARDUST ROADというLPをボーナス収録

 ホーギー・カーマイケルの曲で私が忘れられないのが「Winter Moon」である。『HOAGY Sings CARMOCHEL』というCDに収録されている。あのアート・ペッパーがサイドメンとして加わり、大きくフィーチャーされている。1956年の録音、あの『Meets the Rhythm Section』の前年であり、彼の絶頂期である。特に「Winter Moon」でのソロは、ため息が出そうなほど美しい。アート・ペッパーの独奏の中でも、最高のものの一つだと思っている。ホーギー・カーマイケルの通好みというか、下手くそというか、聴きこめば良さがわかるといえばいいのか、不思議な歌声とアート・ペッパーの美しいアルトの調和・不調和が一種の幽玄ささえ感じさせる。

 アート・ペッパーは、カムバック後、ストリング・オーケストラをバックに『Winter Moon』というLPを録音している。後期のものの中では好きなものだが、どうしてもペッパー自身が56年のペッパーを模倣しているように聴こえてしまう。

 同じCDには「Skylark」も収録されていが、ここでも中間部のペッパーのソロはすばらしい。この「Skylark」という曲は、昔リンダ・ロンシュタットがネルソン・リドルをバックにジャズ名演奏のパスティーシュ・レコードを出したが、それがこの曲を聴いた初めてであった。あの中では「Skylark」はよく歌えていたように思う。誰のパスティーシュだったのだろうか?

 『HOAGY Sings CARMOCHEL』には「Georgia on my Mind」「New Orleans」といった名曲、ボーナストラックには自演の「Stardust」なども含まれており、貴重である。「Stardust」とで思い出されるのはナット・キング・コールの絶唱で、これ以外にはあり得ないと思うほどであるが、ホーギー・カーマイケルの自演も彼の口笛とともに、なかなか捨てがたいものがある。

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