カスパー・ダ・サーロ四重奏団?~不協和音四重奏曲(4)

 最近はすっかり見かけなくなったが、以前は地下鉄の通路などでよくCDラックを並べて歌謡曲、ジャズ、クラシック、何でもありの販売をやっていたものである。私は「道ばたCD」と呼んでいた。ほとんどは著作権切れの編集ものなのだが、クラシックだけはメジャーの販売経路に乗らないマイナーな録音ものが並ぶこともあった。例えば今では有名になったブロムシュテットとドレスデンによる、あの第九の“素晴らしい”ライブ盤などは、LIMELIGHTブランドの道ばた売りで初めて聴けたものだった。今でも十数枚ほどはこの道ばたCDで愛聴しているものがある。

CAVALIERのCasper Da Saro Quartet
Mozart Dissonance quartet

 カスパー・ダ・サーロという聞いたこともない弦楽四重奏団の、不協和音四重奏曲のCDを買ったのもこの道ばたCDである。同じCAVALIERブランドのシリーズでのクルト・レーデルやホカンソンのもの、これらの奏者は信用できるということで、この正体不明の四重奏団のものも “ついで”に買っただけである。
 ところが、不協和音四重奏も、併せて収録されている初期の四重奏曲も、よく歌うすばらしい演奏だったのである。やや古いといえば古い演奏スタイルであるが、それまでに聴いてきたどの演奏よりもその情緒は豊かなのである。


 一体このカスパー・ダ・サーロ弦楽四重奏団とは何者だろうか?道ばたCDだけあって、演奏者の解説は全く記されていない。インターネットで調べてみると、やはり同じ疑問を持った人たちがいたらしく、その正体探しで盛り上がっていた。どうやら結論は、あのイタリア弦楽四重奏団の「変名」録音ではないか、ということだった。
 さっそくフィリップスでのイタリア弦楽四重奏団の録音の聴き比べを行うと、なるほど、これはイタリア四重奏団の演奏に違いないと納得した。しかしフィリップスのものは1966年のアナログ録音、ダ・サーロの方は1987年(初出時)のDDDで、演奏はさらに深みのあるものとなっているように感じられるのだ。
 特に不協和音四重奏曲のアンダンテ・カンタービレ、あの最後のコーダこそ、私はひそかにモーツァルトが書いた音楽でも最も「美しい」旋律のひとつであると思い込んでいるのだが、このカスパー・ダ・サーロ弦楽四重奏団のコーダは、知る限りの他の演奏では聴けないものだと思っている。

 時には気分を変えて、ダ・サーロとは全く正反対と言えるほど「あっさり」とした、ターリッヒ弦楽四重奏団のアンダンテ・カンタービレも愛聴している。

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