素心蠟梅とヒヨドリ

 ロウバイか蠟梅かで迷ったが、花の姿を言い切っている漢字で記すことにした。

 中学時代、父が黒蠟梅を植えようとして植木屋に依頼したが、探し切れない。黒色蠟梅は、蠟梅とは違う種で、南国では手に入らないとのことだった。結局普通の蠟梅を植えることになった。私は蠟のように半ば透き通った、香りの良い花が大好きだった。
 今、横浜の家の庭にある蠟梅は私が植えたものだ。花の中心が紫や茶色にならない、ソシン蝋梅という品種である。〈素心〉または〈素芯〉と書くとのことだ。〈素〉とは園芸では花びら全体が一色であることを言うらしい。〈素〉はいい字だ。岩本素白という物書きがいたが、この〈素〉なのだろう。私は〈素心〉という字を使うことにした。

 今年は夏から秋まで暑かったからだろうか、この素心蠟梅に今までにないほど多くの蕾が付いている。
 ここから恒例の作業である。枯れた葉、枯れそうな葉を一枚一枚、手ではずしていくのである。数回に分けて千枚ほどか。軽く引っ張るだけで簡単にはずれるが、手の届く範囲にとどめる。込み入った枝では、蕾を落としてしまう。
 葉を落とすのは、第一に隣家に落ちるのを防ぐため、次いで、蕾への日当たりを良くして美しく香り高く咲かせるためだ。ただ問題がある。葉を落とした蠟梅の蕾は、鳥に喰われやすくなるような気がする。

 12月14日、蕾がふくらみ始めている。随分遅い。その後も初寒波のせいか、開花は進まない。

 12月17日、ピーョピーョと鳴く声がうるさく、外を見ると、何と、大きめの黒い鳥が二羽、せっせと蠟梅の蕾を啄んでいる。外に出ると、大慌てで逃げて行った。こいつが犯人だ。証拠写真を撮った。ヒヨドリである。蕾を銜えている。防鳥網なるものもあるらしいが、鳥の方も餌のとぼしい冬に懸命である。少しわけてあげてもいいか、と思う。

 12月21日、少しずつ開花し始めた。例年に比べると1カ月ほど遅れている。気温の上下が激しくて花も迷っているのだろう。今日もまたヒヨドリが二羽来ていた。ふと足元を見ると、開きかけた蕾がいくつか落ちている。逃げる時に落すらしい。

 『鳥の手帖』には、蕪村遺稿として

    鵯のこほし去りぬる実のあかき

という句がとられている。素心蠟梅なら「つぼみの黄」である。

 満開は、ちょうど元日あたりになりそうである。

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